第1話 ブラックコーヒーとマスターの衝撃

あれは、私が高校3年生の頃。
地元に古くからある、以前から気になっていた場所があった。
外から見ると、壁一面が青々とした蔦に覆われた物言わぬ建物。
噂では怪しげなアンティークを扱っているのだとか
…そんな謎めいた喫茶店。

ある日の放課後「今日行こうぜ」
と、意を決し仲間3人とその扉をギィと開いたのでした。
薄暗い室内は窓から優しい斜光が入り
何なのかわからない黒々としたガラクタたちが所狭しと置かれ
自分には初めての光景が広がっています。
BGMはジャズ。心地よい…

「いらっしゃい。」

落ち着いた優しい声。
髭を生やしたマスターが出迎えてくれて、一同安堵。
生意気にもこの店のムードにぴったりだと思った私。

席につき、自分だけカッコつけて
ブラックコーヒーを注文する。苦ぁ…

「どこの高校?」とマスター
「○○高校ス」
「ちょっと見せてもらっていいですか?」
私たちは店内を宝探しでもするかのように
ウロウロと歩き回り、いちいち
「これは何ですか?」と、マスターを質問攻め。
「興味あるんかい?」
「興味あります。」
こんな風に説明を聞いているうちに
いつの間にか時間が過ぎ、あたりは薄暗くなっていた。
そろそろ…と会計をしようとすると。

「お金はいらんよ。貧乏学生からお金をもらうほど困ってはおらん」

初めてやってきた高校生たちに、代金は要らないと言うマスター。
大いに驚き、その懐の大きさに衝撃を受けた高校生の私は
すぐにこの喫茶店とマスターのファンになり
暇があれば足を運ぶようになったのです。

その美味しさも、自分の口に合うのかも全く分かっていなかった、
高校3年生のブラックコーヒー初体験。
そして、これが今もつづく、
愛と苦悩のコーヒー人生の始まりだったのです。

つづく