第3話 同じ美味しさを毎日つくることの難しさ…

「もう辞めたい」と思う気持ちを
その度に脳裏に浮かぶマスターの笑顔で打ち消しながら、
入社して数年が経とうとしていました。

この頃には、コーヒーの焙煎という仕事に
本気で興味を持つようになり、独学でコーヒーを学んでいました。

入荷する生豆が同じ銘柄でも、ロットによって違うこと。
グレードによる味の違いやその日の天候によって
焙煎度合いが違ってくること。
季節によって煎り上がりの変化があること。

そして、焙煎機のこと。
富士珈機さんの「フジロイヤルR-45」という、
熱風式の焙煎機を駆使し、焙煎温度、ダンパーによる
エアー調整で同じ銘柄でも香りや味わいの違いの変化が起こる。
なんと複雑で繊細な…
そのおかげで、同じ美味しさを毎回つくることの難しさを
体験から理解することができました。

当時は、インターネットも普及していない時代。
情報も少なく、色々なことが手探り状態でした。
日々、焙煎に取り組んでそこから学ぶことも多いけれど
同時にわからないこともどんどん出てくるので
上司や生豆の仕入れ先商社の皆さんに教えてもらい、
その知識を自分の中に叩き込んでいました。
経験値と自信が高まっていくうちに、
いつかは独立してコーヒー屋をやってみたいと思うようになったのです。

つづく